白夜

 なるべく息を潜めていたつもりではあったんだけど。
「そーちゃん、眠れないん?」
 ぎくっと肩が跳ねてしまった。これで無視するのも環くんに悪い。観念して振り返ると、薄闇の中でわずかに光る瞳に、心配の色がにじんでいる。
「……君こそ」
「そーちゃんが寝つくまで待ってよーと思ったの。なのに、背中向けちゃうんだもん」
 可愛いことを言えない僕に、環くんが可愛らしく唇を尖らせる。そのままうつぶせになって上体を起こすと、僕を抱えるように腕を回して、頭を撫でてくれた。
「なんかあった?」
「……何も、ないよ……心当たりは」
「そっか」
 さら、さら、と髪が擦れる音がする。環くんが眠たそうな、でも慈しむような瞳でこちらを見てる。見つめあっていたら、なぜだか目がうるんできてしまった。悲しいことなんて、何もないのに。
「さみしい時って、あるよな」
「そんな時、どうしてた?」
「おふくろにこうしてもらったこと、思い出してた。そーちゃんは?」
「……本を読むか、音楽を聴いていたかな」
「じゃあ、これからは俺んとこ来な」
 大きくて温かな手が、気持ちいいな。まぶたを閉じたら、涙が一粒こぼれてしまった。環くんは、茶化したりしなかった。もう一度目を開けたら、笑っていたけれど。
「そーちゃんはだんだん眠くなーる」
「ふふ。当分ならないと思うよ」
「じゃあ、だんだん幸せになーる」
「あはは。もうなってるよ……」
 口元は自然に笑んでしまうのに、泣きたい。手の甲で目頭を隠すと、恥ずかしくなるくらい熱かった。手放しで満たされていると言える夜じゃないのに、この時間が永遠に続いてほしい。
「環くん……」
「うん?」
「ずっと、一緒にいてね」
 切ないけれど、泣き言じゃない。君に出会ってから、自分の弱いところを見つけるのが上手くなってしまった。本当は、置き去りにしてしまいたかった。なのに、君が全部抱きしめてくれた。
「いるよ。さみしくても、泣きだしたくても」
 君の手で強くしてもらったら、今度は僕が守りたい。