夢のほとりで待ち合わせ

『先に寝てるね。おやすみなさい』
 今朝三時起きだったそーちゃんからラビチャが来た。時刻は真夜中のちょっと手前くらい。俺の帰りを待っててくれたのかもしれないけれど、さすがに眠たくなっちゃったんだろう。
「ただいまぁ……」
 リビングは真っ暗だった。もうみんな寝ちゃったみたいだ。ヤマさんやみっきーは、明日早いって言ってたっけ。そーちゃんはのんびりできたと思うけど。
 一人で遅くに帰ってくると、お風呂に入る気力が一気になくなる。でも入らないと寝つきが悪くなるって、そーちゃんにこないだ心配されたばかりだ。なら、そーちゃんの顔を見てからにしようかな。それでもう少し頑張れるかもしれない。
 そうっとそうっと階段を上がって、そうっと荷物を廊下に放って、そーちゃんの部屋をノックせず開ける。
「……あれ」
 全力の「そうっと」コンボを披露したのに、ベッドの上にそーちゃんの姿はなかった。もちろん机にも床にも。もしや待ちくたびれて、ソファーでぶっ倒れてたりして。ちょっぴりトントンと音を立ててしまいながら降りたけれど──そこにもそーちゃんはいなかった。
 まさか。ドキドキ、胸が高鳴りだす。こんな夜中に手に汗なんか握っちゃって、降りた階段を再び上がる。切れかけた息をなんとか抑えて、今度こそ音を立てずに、自分の部屋へ入った。
「……ふっ」
 つい、鼻から笑い声が漏れてしまった。赤ちゃん電気の下で、そーちゃんサイズに盛り上がった布団の中で、そーちゃんが王様プリンをぎゅっと抱えてる。俺の寝る場所、取られちゃってんじゃん。可愛くて可愛くて、我慢できずに頭を撫でたら、まぶたがゆっくり開いてしまった。
「ごめん。起こしちゃったな」
「……ううん……。おかえり、なさい」
 赤ちゃん電気は、俺のために点けといてくれたのかな。オレンジ色の明かりに照らされて、そーちゃんの瞳がとろけて揺れる。王様プリンはぎゅっとされたままだ。早く、そこに俺を入れてほしいな。
「シャワーしてくっから、ちょっと待ってて」
「うん……」
「あ、でも寝てていいかんな」
「ん……」
 そーちゃんはうるうるの目で、頑張って俺を見てくれた。いじらしくて、愛おしくて、これだけでお腹いっぱいになれた。 気合を入れ直して、ダッシュで風呂を済ませて戻ったら、王様プリンは床に座ってたけど、そーちゃんが布団から腕を投げ出して寝ていた。
「もー……。風邪ひくじゃん」
 王様プリンを床に置いて、力尽きちゃったのかな。細くて頼りないそれを、きちんとあったかいところに収めてやる。そもそもこのままじゃ俺のスペースがない。抱っこしてちょっと奥に寄せてやって、俺もようやく布団に潜った。
 すう、すう、せっかちなそーちゃんからはなかなか想像できない、安らかな寝息をすぐそばで聴ける。無防備に瞳を閉ざして、唇を薄く開いた表情は、子供みたいだ。見てると幸せな気持ちで満たされるのは、そーちゃんが幸せそうな顔をしてるから。そんなふうにさせられてるのが、ちょっとくらい俺のベッドのおかげなら嬉しいな。
 そんな寝顔を眺めつつうとうとしたら、夢の入り口にそーちゃんがいて、ふんわり笑って手を差し出してくれた。俺は喜んで飛びついて、晴れた空の下で手をつないで、一緒にてくてく歩きだす。 おやすみの前の時間が取れなかったぶん、今夜はちょっと長く隣にいたいな。