039 花守り

 七人でのロケの帰り、番組の成功祈願にと近くの大きな神社に寄ったのに、大和さんとナギくんは各々散歩や観光に消えてしまったし、陸くんと三月さんはおみくじに夢中だし、一織くんは境内の端から端までお参りに回っているしで、マネージャーが困り果てていた。
 せめて環くんだけは僕が捕まえておこうと辺りを見回したものの、そう思い至るのが遅すぎたみたいで、どちらの方角に向かったのかさえも分からない。意外に、というよりお化けを怖がる程度には信心深い彼のことだから、理ちゃんに会えるようにと、改めて本殿にお願いに行っているのかもしれない。確認しようと社務所を横切ったところで、木札や守護矢の隣に、花柄に彩られた可愛らしい御守りが並んでいるのを見つけた。
 その一角のものだけやたらと種類が多くて、よく見ると、外袋の柄や色は、誕生月の花に対応しているらしかった。十二種類もあるなんてすごいなと単純に驚きながら何の気なしに一つを手に取るなり、脇からずいと二人分の影が覗いた。
「壮五、四月生まれだったっけ」
「そうだっけ? でも桜か。壮五さんに似合うなあ」
 さっきまでおみくじの結果に落ち込んだりはしゃいだりしていたのに、すぐそばに来ていたなんて気付かなかった。何から言い訳しようか迷っているうち、頭が真っ白になってしまって、とりあえず手の中の物を箱に戻す。顔はたぶん百面相状態だっただろう、何かを察したらしい三月さんが苦笑いをして、陸くんは不思議そうに首を傾げた。
「四葉さんはこちらでしょう」
「うん。そーちゃんが五月」
 考えるより先に肩がびくついた。いつの間にか高校生たちに背後を取られていた。
「た、環くん、いたの」
「へ? うん。なー、いおりんいつだっけ」
「メンバーの誕生日くらい覚えてください。一月です」
 フクジュソーってなに、なんて箱の中をつついている間にも、環くんは五月の花守りを手から離さない。それをぼんやり眺めているうち、一織くんは本殿へ、三月さんと陸くんは鯉の遊ぶ池へとそれぞれ行ってしまった。
「そーちゃんの花、これ、なんて読むの」
「え? ええと、見せてくれるかい」
「見せてって、さっきまで見てたんじゃねえの」
追い打ちのように指摘されて、ついに頬がかあっと熱くなった。環くんだって自分の月より先に五月の御守りを見ていたのだから、照れることなんて何もないのに。
「そーちゃん、もしかして」
「う、うるさいな」
「俺の誕生日覚えててくれたの?」
「サイトに載ってるんだから覚えるよ」
 恥ずかしいのは誕生日を覚えていたことじゃない。自分でも気付かないうちに、自分の誕生月ではなく、環くんの誕生月に意識を奪われていたことだ。知ってか知らずか環くんは、そっぽを向いた僕の耳もとで、御守りについた鈴を揺らした。
「俺もそーちゃんのは覚えてんよ。なあ、買うんだったら交換しよ。そーちゃんの花覚えたい」
 御守りを、まして正月でもないのに買う習慣はなかったけれど、そんなことを言われたら断れない。王様プリンを二つも買えそうな値段だったから、ここは僕が持つことにして、環くんの言うとおり、五月の御守りだけ手渡した。
「かわいーな。ちっちゃいのかな」
「比較的小さな花だと思うよ」
「なんかそーちゃんぽいな」
「でも、実は毒があるって知ってる?」
「なにそれ。余計そーちゃんぽい」
 どういう意味、と笑顔を向けると、そーいうとこ、と口をへの字にされた。
「俺のは分かりやすくていーだろ」
「桜だよね。花言葉は『精神の美』だって」
「セーシン? ノビ?」
「純粋、に似てるかな。心の美しさのことだよ」
「よく分からん」
「汚れてないってこと」
 逆に汚れてるってなに、いみわからん、と文句を垂れる環くんに、笑うことしかできなかった。思いのほか長居をしてしまっていたようで、神門のほうから、帰りますよと声がかかる。行こうか、と手を引けば、環くんは素直についてきた。
「そういえば、どうして五月の花を覚えたいと思ったの」
「ん? んー。なんてか、花言葉が……」
 マネージャーのところへ集まる途中、砂利を鳴らしながら尋ねると、環くんは説明もそこそこに御守りの包装を外して、台紙の部分だけを僕に渡してくれた。
「読んでみ」
「……『幸福の再来』」
「な。俺、そーちゃんが五月生まれでよかったって思った」