034 本当のこと

 夕べの寮での飲み会もいつも通りといった感じで、いつの間にか酔っ払ったそーちゃんがまずヤマさんのところへ甘えに行き、一、二時間後にギブアップしたヤマさんからそーちゃんを本体ごとパスされた。
 水だのトイレだの抱っこだの着替えだの、介護もほとんどルーチンワークで、一晩中そーちゃんが吐いたりしないか見守りながら、翌朝の自己嫌悪を聞いてやるだけのはずだったのに。
「あれ……大和さんの隣へ行った後、どうしたっけ……?」
 今朝のそーちゃんの第一声で、俺はとうとうブチ切れてしまった。

「なに? ついにMEZZO”解散の危機?」
 小声で茶化したヤマさんをみっきーが小突いたところまで俺には丸分かりだ。食卓には俺とそーちゃんしかいないのに、わざわざテーブルの角と角に座ってるのだから、俺らがケンカ中であることは誰の目にも明らかだった。
「すみません。僕がまた環くんを怒らせてしまったんです」
 俺が水を飲むタイミングと、そーちゃんのその台詞が重なって、コップを置く手につい力が込もってしまった。タン、と勢いのある音と一緒に、そーちゃんの肩がわずかにビクつく。
 昔から、怖いってよく陰口を言われたな。目つきが悪くて図体もでかいんだから、仕方ないとは思うけど。
「そーちゃん、それはなんのスミマセンなの。空気悪くしてゴメンナサイってこと?」
 聞けばそーちゃんは息を呑んだけれど、すぐ俺を上目で睨み返してきた。
「そうだけど」
「そりゃそーか。ヤマさん、みっきー、ごめんなさい」
 これは心からの気持ちだ。他の皆は悪くない。俺らの仲違いにだんだん慣れてきてもいるだろうけど、状況を見てそっとしておいてくれたり、互いのいないところで話を聞こうとしてくれたり、いつも何だかんだ気を遣わせてしまうのだ。
「でも、大丈夫だから。仕事はちゃんとするし……俺らの問題だから」
 ヤマさんたちに少しでも気を楽にしてもらいたくて口にしたとはいえ、最後の言葉にはどうしても胸が痛んで、シンクに皿を突っ込みながらの、吐き捨てるような言い訳の仕方になってしまった。
 二人きり、電車での移動中も、人混みのなか乗り換える時ですら口をきくことは一度もなかった。勝手に怒っているのは俺のほうだけれど、そーちゃんのほうにも少なからずバツの悪い思いがあるんだろう。
『ヤマさんのとこ行ったのは覚えてんの? ……なんで?』
 起き抜けに問い詰めながら泣きそうになってしまった。窓の外の景色を流している今も少し涙がにじむ。
 そーちゃんが酔っ払っている間のことを忘れてしまうのは別によかった。何度切腹ものだと落ち込んでも、飲むのを決してやめないことも。ヤマさんに真っ先に甘えるのだって、そーちゃんが無意識にそうしたいと願っていたことだったなら、俺にとめる筋合いはない。言っていいわがままと悪いわがままがあるんだってことを、そーちゃんの隣で何度も思い知ってきた。だから今までの罪滅ぼしも兼ねて、そーちゃんのたった一つのわがままにずっと黙って付き合ってきたのに。
『いつもヤマさんのとこ行くのはわざとだったの?』
 ムカつくのと悲しいのとでぐちゃぐちゃになって、自分の一言で、いろんなものを台無しにしてしまった。あの時のそーちゃんは俺に負けないくらい、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 そーちゃんと口ききませんキャンペーンは、たった二日で幕を閉じた。
「今日の収録の後、大和さんと三月さんと、懇親会に呼ばれてるから。……君は皆と帰っていていいから」
「場所どこ」
 そーちゃんの言い方にトゲを感じてこっちも不機嫌な声が出たけれど、だからって無視するわけにもいかない。言われなくても皆と帰るけど、ヤマさんはともかくみっきーだって酒に弱いし、マネージャーだけに全部を任せきりにするのは悪い。
「駅の近くみたい。後で地図を送るよ」
 俺はまだミセーネンだし、場所なんて頭に入れとくだけだけど、そーちゃんはちゃんと教えてくれるし、俺は確認してしまう。それでもやっぱり、俺がかまうから仕方なく教えてくれているんだろうか。胸にちくちくとした痛みがよみがえる。
「あの……ごめんね」
「なにが」
「いつも面倒を見てくれてるのに、こないだは失礼なことをして」
「シツレーだから謝んの? そーちゃんの本心なら別にいいっつってんじゃん」
「そういうことじゃなくて……僕のせいで君を傷つけてしまって」
 そーちゃんは俺がなんで怒ってるのか全然分かってない。怒りに怒りが重なって、わけが分からなくなって視界が潤む。
「傷ついてねーし……」
 俺がヤマさんに負けちゃうのはしょーがない。ヤマさんは大人だし、そーちゃんのこと甘えさせてくれそうだし、俺は負けないように頑張るしかない。問題はそーちゃんが「ヤマさんがいい」って思っててもずっと言えなかったってことだ。
 俺に申し訳ないと思ってたの? そう思いながらずっと俺の隣にいたの? ついに鼻の奥がツンとして、でも今日はなぜかそーちゃんの前では泣きたくなくて、黙ってトイレへ駆け込んだ。
「……ちくしょー」
 個室の扉を閉めて、手の甲で涙を押しとどめた。目が腫れたら泣いたって分かってしまう。この気持ちには覚えがある。そーちゃんが倒れた時に持て余すことしかできなかった悔しさに似てる。
 そーちゃんに無理をさせて、倒れさせてしまった日から、「そーちゃんの一番にはなれないかもしれない自分」を少しずつだけれど受け入れてきたつもりだ。「君では足りない」と告げられることは悪いことでも可哀想なことでもない。本当のことならちゃんと知りたい。
 そーちゃん、ちゃんと言ってよ。俺が思ってるのはずっとそれ一つだけなんだよ。

 収録自体は順調に終わって、飲み会の開始時間が前倒しになって、ヤマさんたちが帰ってきたのは、ちょっと早めの八時過ぎだった。
「みっきー、おかえり。……二人は?」
「すぐ着くよ。大和さんが壮五おぶってる」
 みっきーが説明してくれたとおり、玄関のドアが間もなく空いた。
「たでーま……ミツ、飲み直すぞ」
「マジで言ってる? 明日に響くぞ」
「あんな酒残したほうが逆に明日に響くっつの」
 しょーがねーな、と冷蔵庫へ向かったみっきーについてって、ヤマさん機嫌悪いの、と耳打ちする。
「今日のプロデューサー、ちょっと口悪かったろ。飲み会でもつまんねえこと言われてさ」
 大和さんが最後まで上手く相手してくれたから丸く収まったけど、とみっきーは申し訳なさそうな顔をした。仕事がさっさと終わったのはそのおかげもあるんだろうか。
「今夜は付き合ってやんねーとな。環はどうする? 部屋に避難するか?」
 さっきチラッと盗み見たそーちゃんは、眠ってはいないようだったけれど、ヤマさんにもたれかかってぼんやりしてた。もうだいぶ酔っているようだけれど、やっぱり二人と飲み直すんだろうか。
 それなら、俺の姿が見つからないうちに、部屋に戻ったほうがいいんだろうか。どうやって台所を出るか考えていたら、いいアイディアが出る前に、居間からそーちゃんとヤマさんの声が聞こえた。
「たーくんどこ」
「ん? ソウも飲むだろ。お前が一番胸くそ悪いこと言われてたんだから」
「うう……たーくん、聞こえてるでしょ、そら豆食べる」
 早く決めろ、とみっきーが目配せした。いつもは行ってやれって茶化されるけれど、今日は荒れそうだから遠慮してるんだろう。だけど俺は、そーちゃんが荒れること自体は別にいい。別にいいって分かってほしくて、思わずカウンターの陰から出てしまった。
「タマ、相手する?」
「……しない」
「しないのかよ。ソウ、諦めろ。今日は俺に任せるって」
 やだやだ、と俺のほうへ手を伸ばすそーちゃんの壁になりながら、ヤマさんはビール缶のプルタブを器用に起こした。
「やーだ、たーくん!」
「壮五、あんま騒ぐと潰すぞ。子供たちもう寝てんだから」
「いや、いやだ、たーくん、嫌いにならないでっ」
 どの口が言うんだバカ、そう思ったら一気に足が動いて、俺は部屋への階段を駆け上がった。
「うおっ、暴れんなってソウ」
「無視しないでよぉっ……」
 そーちゃんの泣き叫ぶみたいな声を振り切って、自室のドアを勢いよく閉めた。その場にずるずるとへたり込むと、抱えた膝に涙が落ちた。いくらケンカしているとはいえさすがに堪えた。けれど朝になったら全部忘れているはずだ。
 しばらくしないうちにドアがコンコンと鳴って、肩が盛大にビクついた。聞こえたのはみっきーの声だった。
「環。開けるぞ」
「やだっ。そーちゃんのとこには行かないっつったろ」
「世話はしなくていいから。やっぱ仲直りだけしな。壮五のあんな声、オレらももう聞いてらんねーよ」
「やだってば……だって、ヤマさんがいいって、そーちゃんが言ったんだぞ」
 そーちゃんがお酒を飲んで記憶をなくしてしまうことが、最初は一番理解できなかった。記憶をなくすと分かっていても飲み続けるってことは、それだけいつも忘れたいことがそーちゃんの心を支配してるのだと気付いた時は、胸を引き絞られるような思いがした。
 そーちゃんは、俺の知らない「忘れたいこと」を抱えて毎日笑ってる。そう思うと今でも息ができないほど苦しくなるけれど、いっときも忘れられないまま我慢し続けることがいいのかといえば、そんなことは絶対にない。忘れるくらい飲みたい、そのわがままの手伝いを、俺ができるなら少しはそーちゃんの助けになれるかなって思ってた。
「なのに、なんで飲む時まで我慢しなくちゃなんねえんだよ。おかしーだろ。飲む時だけでも、俺は離れなきゃ……」
 言い切る前にバァンとドアが開いて、気付けば俺は床にひっくり返っていた。廊下から洩れる明かりで見えたのは、出入り口に仁王立ちするみっきーだ。グループで一番ちっこいみっきーにドアで跳ね飛ばされた。俺、グループで一番筋肉あんのに。
「み、みっきー、痛い」
「るせー! 愛のムチだ!」
「ムチじゃなくてドアだろ……」
 そういえば、面倒くさがりなヤマさんに反してみっきーは白黒つけたがりでおまけに短気なんだった。もうこれ、絶対そーちゃんの前に引きずり出されて無理やりワカイさせられる。色々考えすぎて弱っていたせいか、抵抗する気が起きずにそのまま寝転がっていたら、みっきーが部屋に入ってきて、俺の横にちょこんとしゃがんだ。
「あいつさ、ああ見えて割と酒好きなの知ってたか?」
「知るかよ。知ったこっちゃねー」
「いやいや。知ってもらうわ。あいつ、寮来るまでちゃんと飲んだことないっつってたろ。俺らが教えたようなもんなんだよ」
 教えたんなら責任取れよおー、と泣き言を言うと、ごめんな、と笑いながらみっきーが頭を撫でてくれた。
「壮五、叔父さんを最後に見たの、酒の席だったって言ってたろ」
「あー、うん。もしかして、それで酒苦手だったの?」
「ゴメイトー。俺らと飲んで、楽しいって分かったって。だから、環にもそう思ってほしいんだってよ」
 そこでなんで俺? 意味が分からず顔で訴える。みっきーはちょっと困ったように笑って、俺のおでこに軽くデコピンを食らわせた。
「親父さんが酒飲みだっつってたじゃん、環」
「はあ!? あいつあんなこと気にしてんの」
 思わずガバッと起き上がってしまった。それで酒は悪いもんじゃないって俺に伝えたくて飲んでたんなら本当バカな話だ。
「環のことだけじゃねーよ。さっきも言っただろ。叔父さんの件があるからさ、楽しく飲めるようになって、いつかお前と杯交わせんのを、あいつずっと楽しみにしてんだよ」
 ――たーくん、そこにいて。
 コップを両手で握ってテーブルにしなだれながら、ふにゃりと笑ったそーちゃんを思い出す。俺の隣に座りながら、一緒に飲みたい、って思ってたの?
「あ、いや、待って。ごまかされねーぞ」
「なんだよもー。後はなに」
「そーちゃん、自分の意志でヤマさんとこ行ってんだって。ヤマさんがいーんだって、ほんとは」
 危ない。絆されるとこだった。みっきーもヤマさんもいい人だし、そーちゃんにも悪気はないんだろうから、時々怒ってたのを忘れてしまう。
「最終的には環んとこ行ってんだからいいだろ」
「よくない。これからそーちゃんの相手するたびヤマさん思い出してくじける」
「信じてやればいいんじゃねーの? 酔った時は欲求が出るって言うし」
「じゃーなんで最初はヤマさんとこ行くんだよ!」
「知らねーよ壮五に訊け!」
 訊いて解決するんだろうか。またケンカになる気がする。メンバーは俺らがよくケンカしてるの知ってるけど、メンバーが知ってる以上に実は俺らはケンカしてる。当たり前だ。大抵行きも楽屋も帰りも一緒なんだから。
「もーほんとやだ……そーちゃん悪くねーしもー怒りたくない……」
「じゃあ優しくしてやんな」
「でも悔しいから怒ってたい……」
「難しいなー思春期は」
 悩んでる俺に、みっきーが弟を見るみたいな目で微笑みかける。そういえばみっきー、兄ちゃんだもんな。俺にもし兄ちゃんがいたら、こんな感じだったのかな。
「環は、壮五にどうしてほしいんだ」
「……本当のこと言ってほしい」
「うん。そう言ってやれ」
 これで話がまとまったんだろうか、みっきーが俺の肩を小突いて、ハイほらベッド、とまともな場所で寝るよう急かした。
「そーちゃんとこ連れてくんじゃなかったの」
「今日は頭休ませな。口きかないケンカなんて慣れてないんだろ。毎日湯気出そーな顔してたぞ」
 他人事だと思ってからかいやがって。早く出てけとみっきーのお尻を突っつきながら、ごめん、ありがと、と改めて伝えた。
「ヤマさんにも言っといて。いつもそーちゃんのことありがとって」
「おー。任せとけ」
 これでおっさんも少しは報われっかな、なんてみっきーがつぶやきながら帰っていったけど、意味はよく分からなかった。

『今日は十八時にスタジオ集合だよ。学校、気を付けていってらっしゃい』
 MEZZO”の仕事がある日の朝は、そーちゃんはいつもラビチャで予定を教えてくれる。その前に大抵部屋まで起こしにこられるんだけど、今朝だけめずらしく自分で早起きした俺は、制服に腕を通しかけて、結局いつものシャツとパーカーに着替えた。
「そーちゃん、入るよ」
「えっ、たまっ……うわっ」
 そーちゃんの部屋のドアを開けると、何に驚いたのか、そーちゃんはパジャマ姿のままで、ベッドから転げるようにずり落ちた。
「何やってんだよもー」
「何って、君こそ何してるんだ! 学校は!?」
「用が済んだら行く」
「ああもう、やっぱり今朝起こせばよかっ……いたたたた」
 そーちゃんが顔をしかめて頭を抱えた。なるほど、見事な二日酔いだ。仕事までに少しはマシになるといいな。後で特別に王様プリンを持ってきてやろう。
「とりあえずベッド上がんなよ」
「ごめんね、本当に申し訳ない……」
「別に俺なんもしてねーし、どうせいつも通りじゃん」
「否定はできないけど、そういう問題じゃないんだよ……」
 昨日の今日で、情けないやら恥ずかしいやらなんだろう。そーちゃんの心にも引っかかってることを、今日中にひと段落させることはできるかな。
「ねえ、そーちゃん。そーちゃんはどうしてお酒飲むの」
 改めてベッドに横たわったそーちゃんは、いかにも「来た」って顔をした。俺はなるべくどんな感情も顔に出ないよう努めてみる。俺の顔色なんか関係ない、そーちゃんのそのままの気持ちが聞きたい。
「ごめんね、君たちにしてみたら、あまりいい気持ちではないよね……」
「どーでもいーよ。そうじゃなくて、そーちゃんがなんで飲むのか知りたい。ただそんだけ」
 なんだか二回同じようなことを言ったような気がするな。そう思ったら無表情に努めていた頬がちょっと緩んでしまった。そーちゃんは俺のことを子供子供って言うけれど、大人だってよっぽど手がかかる。でも、何度でも言い聞かせるよ。
「お酒、好きなんだ。……こんなこと言ったら、気は確かかって怒られるかな」
「だって、記憶なくしちゃうのに?」
「楽しかった気持ちは覚えてるよ。記憶も、なくならないようになるほうがいいんだ。本当は」
「でも、忘れたいから忘れちゃうんじゃねえの」
「それ、大和さんにも言われたよ」
 ヤマさんの名前を出しながら、そーちゃんが苦笑いをした。俺の胸は痛まなかった。
「強くなりたいなあ」
 何に? お酒に? 訊くまでもなくて、そーちゃんの少し赤くなった眼だけを見つめた。そーちゃんの情けなさそうだけれど気の抜けた笑顔を見ていたら、俺が必死にそーちゃんの世話をしてきた日々が、俺の知らない色に変わった。
「……俺は、そーちゃんがお酒を飲むたび、忘れたいことがあるんだって思って、いつもちょっと怖かった」
「そうか。そうだよね。ごめんね。でも、そうじゃないから、これからも飲むのはやめないよ」
「早く手がかからないようになってよ」
「うーん、見放されないよう頑張るよ……」
「ん。三年だけ待つ」
 ぱちくり。そーちゃんが大きな目を瞬かせたけれど、すぐに嬉しそうな形に戻った。みっきー、すげーな。本当にカンシャだ。夕べ言ってたこと、当たってたよ。
「じゃあ、ガッコー行く前に確認だけど」
「……あ! どうしよう、完全に遅刻じゃないか」
「二限から行くから諦めて。なあ、酔ったそーちゃんのお世話すんの、俺と、ヤマさんと、どっちがいい?」
「えっ……」
 そーちゃんから、「え」に点々がついてそうな声が出た。ケンカの続きだと思われてんだ。けれど自分の頭が冷えていて余裕があると、慌てるそーちゃんの様子を見るのは少し面白いかなとも思えてフォローするのはやめた。
「え、選べないよ……というより僕は、そもそも皆に面倒をかけないように」
「できない話はしなくていいから」
「う……」
 頭が痛そうな顔に戻ったそーちゃんは、最後の試練だとばかりに首を捻った。俺もこのケンカはいい加減に終わりにしたい。けれど、この質問に正解の答えなんてない。それをそーちゃんが分かってくれたら、俺たちはやっと仲直りできる。
「わかった。ちゃんと説明するよ。大和さんにはね、一緒に飲むようになってすぐの頃にお願いをしたんだ。酔った僕を見張っていてくれるように」
 思いがけない返事がとんできた。そんなこと、みっきーは教えてくれなかった。どうやって「いいよ」と言ったらいいのか分からない。あからさまに困ってしまって、そーちゃんも戸惑った顔をする。
「あのね、気を悪くしないでほしいんだ。僕はどうしても記憶をなくしてしまうだろ。酔っている時に何をしでかしてるか、どうしても不安で」
 親父さんが酒飲みだっつってたじゃん――みっきーの声がよみがえる。バカバカ、そーちゃんのバカ。言いたいのをこらえて、唇をきゅっと噛む。
「なら飲むなって、やっぱり怒るかな……。でも、楽しく飲むことをやっぱり諦めたくなくて」
「でも、俺がダメでヤマさんなら大丈夫って、俺はともかく、ヤマさんにシツレーなんじゃねーの」
「えっ、そうかな……。年上だし力も強いから、つい頼りにしてしまってたのかな」
 俺に対しては言葉一つについてもいちいち怒るか気にしてくるのに、ヤマさんに対しては、自分がしてることに大した疑問も持たないでやがる。ヤマさん、いいなあ。やっぱりそーちゃんに甘えられてる。他人と比べたってしょうがないけど、早く俺もそんなふうになりたい。
「わかった。じゃあ、今度そーちゃんがヤマさんの隣行く時、俺も一緒に行ってやるよ。それで、両側からべろべろに甘やかしてやってるとこを、みっきーに撮影してもらう」
「ごめん。それは勘弁して」
「やだよ。悔しいもん」
 もう早く学校行きなさい、そーちゃんが照れ隠しも兼ねて俺の脇腹をつま先で突っつく。足癖わりーぞ、とはたいてやって、立ち上がるとそーちゃんはほっとした表情を見せて寝返りを打った。
 残念ながら俺はまだ学校へは行かない。これから同じく二日酔いのヤマさんの部屋を訪ねて、今日までのお礼と明日からの提案と、ちょっとした宣戦布告をしてきます。