011 パンツ

 目を開けるとたくましい肩がすぐそこに晒されていて、考えるより早くブランケットを引っ張った。遅れて自分が一糸まとわぬ姿でいるのに気づく。ああ、夕べはあのまま起き上がることもできずに、二人して眠りに落ちてしまったんだっけ。
 気力が回復すればやはり裸でいるというのは落ち着かなくて、ベッドの下を目だけで探す。僕がいながら粗雑に脱ぎ散らかされた衣服たちは、昨晩の二人がいかに無我夢中だったかを物語っている。
 宿泊を伴う地方ロケに揃ってオフが続いたとなれば、そのままもう一泊泊まっていくほかに選択肢はなかった。飲み会で体調を理由にお酒を断る時は毎度心が折れそうにもなったけれど、いつもはあちこちの席に引っ張りだこの環くんがぴったりとそばを離れなかったから、一次会の終わりまで和やかに過ごすことができた。当たらなかった雨の予報に安堵しながら手袋はつけず、けれど手をつなぐことはできずに、無言のままホテルまで足早に帰る間の緊張感が、甘すぎて苦しくなるほどだなんて知らなかった。
 さて視線をさまよわせた先に自分の下着を見つけることができない。替えが足りないから汚さないでと頼んだら、早々に脱がされてしまったんだった。そういう時に限って環くんはいつまでも服を脱ぎたがらないのだから腹が立つ。寝息の隣でそうふてくされる僕の目に留まったのは、王様プリンのトランクスだった。
 こんな幼い趣味で僕のことを好きだというから、もっと可愛らしい恋をするつもりなのかと思えばそうでもないし。ともかく大胆に広げられた下着を見ていたら裸でいるのがいっそう恥ずかしくなってしまって、僕は寒さを我慢しベッドから出た。
 ほんの一瞬、魔が差したと言うほかない。改めて着るものを探すと僕のすぐ足元、ベッドの上からちょうど死角になるところに自分の下着も落ちていて、それを拾い上げた時に気づいたのだ。身長や体格に差があることは分かっていたけれど、当然、下着の大きさにもそれが反映されているのだと。
 僕は自分の下着を再び床に放り、環くんのものを手に取った。半ば無意識に寝顔を一瞥してから、わずかな音も立てないようそっと脚を通す。ゴムが骨盤で留まったおかげで、下までずり落ちることはなかったけれど、股の位置がずいぶんずれる。ムッとしながらウエスト部分をくるくると巻くと、動きやすくはなった代わりに、大きくプリントされた王様プリンが半分近く隠れてしまった。
「ふくれっつらでヒトのパンツ穿くのやめてくれる」
「へっ?」
 声に顔を上げると環くんの双眸がしっかりと僕を捉えていた。いつもみたいに寝ぼけていてくれたらいいのに、やたら寝起きがいいのは休日だからか。
「ええと、これは」
「もっと楽しそうな顔で穿いてよ」
「……何を言ってるんだ?」
 やっぱり寝ぼけているのかな。だとしたらどんな寝ぼけ方だと訝っていたら、環くんが腕を延ばして大袈裟においでおいでをした。呼ばれるほどの距離でもなかったけれど、応じて身を寄せるとその手が首と背に回る。勝手な動きに慌てて屈んだ先で、乾いた唇と唇が重なった。
「……そーちゃん、マジメだね」
「何が……?」
「テキトーにふざけてくれたら、見逃してあげたのに。ね、なんで俺のパンツ穿いてんの」
 言葉に反してあどけない笑顔に、憎たらしさが募りつつも頬が熱くなるのをとめられない。自分がどんな顔をしているのか自覚して余計に恥ずかしくなってしまう、我ながら不憫な悪循環に陥って、僕はたまらずベッドに面を伏せた。
「そーちゃーん」
 冷え始めた身体に触れる指先は温かいのに、耳を食む唇がいやに冷たい。動けずにいたら外耳を舐られ、思わず肩が震えてしまった。
 こんな幼い趣味で僕のことを好きだというから、もっと可愛らしい恋をするつもりなのかと思った。それでよかった。憧れることもできた。君の屈託のない愛情がただ一人の人に向けられた時、その人の世界がどんなふうに変わるのか、ずっと知りたい気持ちがあった。
 結局君は想像を果てしなく越えて、僕をどうしようもなく不自由にすることもあれば、どこまでも行けそうな気分にすることもある。今だってこんな間抜けな僕を暴くのに、無邪気に笑って愛しがるのだ。
「そーちゃん、たまには、おとなしく可愛がられるのもいいんじゃない」
 ささやきにぞわと撫で上げられる、甘やかな恐怖が気持ちいい。熱の退かない顔を上げたら、どんな朝が始まるんだろうか。