眠れない夜に

 キィ、と扉の開く音がして、忍び足で誰かが入ってきた。眠りから覚めたばかりの目が開かなくても、気配で分かる。眠るのが大の苦手な、俺の相方だ。
「そーちゃん……」
 遠慮してすぐに出て行くか、床にでも座り込みそうだったから、頭を覚醒させるより先に、声をかけてやった。影はぴくりと肩を震わせて、ほーっと細く息を吐いて、そろそろと枕元に近づいてくる。
「ごめん……」
「いーよ……。おいで」
 布団を広げたら、おずおずと滑り込んできてくれた。冷たい身体をぎゅうっと抱きしめて、背中をぽんぽんとあやしてやる。
「あの……ごめんね」
「いーって。言ってみ」
「でも……話は明日でも」
「だめ。カラダに悪いから、すぐゆーの」
 よしよし、目一杯優しくしたい気持ちを込めて、小さな頭をふわふわ撫でてやる。どきどき、少し速い鼓動が、俺の胸を打ってる。こんな夜中に、そんなに緊張しないで。
「……眠ろうと思ったんだけど」
「うん」
「寝なくちゃって、思ったんだけど……眠れなくて。寝不足だったし、疲れているはずなのに、どんどん目が冴えて……また眠れなくなるんじゃないかって、不安で」
「うん。よく来たな。えらかった」
 そーちゃんがもう一度ほーっと、今度は深く深く息を吐く。少しだけ震えている手が、俺の背中に回る。
「そのちょーし。ゆっくり吸って、ゆっくり吐きな」
「ん……うん……」
「肩も腕も、くてってして。プリンに沈むくらい」
「ふふ……。おかしなこと考えるんだね」
 ぎゅっと押し付けられた心臓は、とくとく、穏やかなリズムを刻み始めていた。そーちゃんの身体が少しずつ温かくなって、腕に込められた力も、優しくなる。
「寝られそう?」
「うん……まぶたが、重たくなってきた」
「よくできました……俺も眠い」
「そうだよね、……ありがとうね」
「んーん。カレシだもん」
 慣れない台詞を言ってみたら、「ふふっ」ってくすぐったい吐息が首にかかった。 いつでも隣にいるって、思い出してね。どんな夜も、守ってあげるから。