本当の僕を見つけて

 パソコンをシャットダウンして、ううんと全身で伸び上がる。まだまだ頑張れる気がするけれど、頭が痛くなってきたから、今日はここまでにしよう。
 作曲に集中するために、スキンケアや明日の準備は全て済ませてある。もうすぐに寝られるけれど、少し喉が渇いたな。階下に行くのも面倒だな、と部屋の真ん中をうろうろしていたら、コンコン、と扉を叩く音がした。
「はい……」
「そー……ちゃん。俺」
 ひそひそ声で名乗ってくれたのは、普段ならもう寝ている相方だった。眠れなかったのかな、怖い夢でも見たのかな。心配になって招き入れると、右手に湯気の立ったマグカップを持っていた。彼のじゃなくて、僕のものだ。
「これは……?」
「よく眠れますよーにっておまじないかけといた。飲む?」
「い、いただこうかな。ありがとう……」
 タイミングよく欲しかったものが現れて、ちょっとどぎまぎしてしまった。ちょうど飲みたかったんだ、なんて報告してもいいんだろうけれど、なんとなく恥ずかしい。
 受け取った白湯をごくごく、立ったまま飲み干すと、「よくできました」とでも言うみたいに、頭を優しく撫でられた。もしかして、今夜は僕が寝かしつけてあげるじゃなくて、環くんが僕の面倒を見てくれるのかな。こんな夜は、滅多にないわけじゃない。環くんは時々、僕が作業を切り上げたタイミングで、なぜか部屋にやってきて、色々と世話を焼いてくれるのだ。
「寝る?」
「うん……」
「一緒に寝ても、い?」
「うん……もちろん」
 どうしていつも来てくれるの、って訊いてみようかな。改まろうとすると、気分がそわそわして目を合わせられなくなってしまう。ベッドに入ったらすぐおやすみモードに持っていかれそうで、つい足踏みをしていたら、急に身体がふわっと浮き上がって、心臓が止まりかけた。
「……っ」
「すまん。怖かった?」
「ううん……びっくりしただけ」
「ごめんな。はい、到着」
 ベッドに優しく下ろされて、上げておいた掛け布団を、就寝時の定位置に戻される。環くんが隣に並ぶのを待っていたら、眉間とこめかみに指を当てられた。
「なぁに……?」
「揉んだげる。このへん、ツボ?」
「ツボ……あ、そうかも、うん……」
 ぐりぐり、凝り固まっている箇所をほぐされて、鈍い頭痛がじんわり消えていく。ほうっと息をついたら、目頭を大きな手のひらで、温めるように覆われた。
「気持ちいい……」
「だろ。今日もお疲れさま」
 ちゅっ、と音を立てて、唇にやわらかいものを押し当てられた。不意のことに、思わず顔が熱くなる。環くんにも伝わっていそうで、手を振り解きたくなったけれど、我慢した。視界はすぐにひらけて、わずかに寂しさだけ残る。
「俺も寝よっと」
「う、うん」
 こんな夜は初めてじゃないけれど、恋人だってことを差し引いたって過剰なくらい大事にされるのは、やっぱり気恥ずかしい。こんなふうにしてもらっていいのかな、と思う。環くんはきっと、俺がしたいんだからいいの、と言う。 だけどやっと思い当たった可能性を確かめないと、今日は眠れそうにない。
「……環くん」
「うん?」
「もしかして、僕が疲れている時に、来てくれてるの?」
 一晩中夢中になる日は、無理するなとだけ声をかけて、そっとしておいてくれる。環くんが僕にかまうのは、決まって僕が比較的早く寝支度をする時だ。環くんが僕のことをよく見てくれているのは知っている。僕の体調を見計らって、早く寝そうな時に来てくれているのだとしたら?
「そーちゃん、疲れてたん?」
「うん、少し……」
「なら、来てよかった」
 おやすみ、とだけ笑って言って、優しい瞳は閉じてしまった。僕を抱えるように抱いた温かな腕は、眠気を誘うような緩やかさで、僕の背中を撫でてくれる。
 見られているなんて、昔は息苦しいことでしかなかった。なのに環くんのそれは、僕を不思議と安心させてくれる。
 だから、明日は勇気を出して、僕から甘えてみようかな。欲張りかもしれないけれど本当は、眠る前にもっとたくさんキスをして、もっと強く抱きしめてほしい。