暖かなる日も

 昼間はちょー広い公園で、赤や白の梅の花を見たり、サイクリングをしたりするロケだった。お仕事だけど、デートみたいで嬉しかった。空はぴかぴかの晴れだったし、風も冷たくなかった。そーちゃんが「暑いね」ってマフラーを外して、首をパタパタ仰いでるのが、妙に可愛かった。
 そーちゃんが冷えちゃうのは嫌だし、春が好きだし、あったかいほうが、いいんだけど。
「今日のロケ、楽しかったなー」
「そうだね。皆でピクニックしたくなっちゃったな」
 明日の打合せをしようって、寝間着姿のそーちゃんが、俺の部屋に来てくれた。打合せはジュンチョーに終わって、雑談タイム。二人でベッドに寄っかかって、膝を抱えてる。ちっちゃくなってるそーちゃんも可愛いな。
 付き合い始めてから、そーちゃんが可愛くて、可愛くて、ずっと見ていたいなって思う。守っていたいのとは、別の気持ち。だからあんなに暖かかった日の夜は、「もう寝よっか」って言いづらい。一緒に眠る口実がないから。
 昔は、ってほど昔でもないけれど、昔は「怖い夢を見た」なんて嘘をつくこともあった。だけど昼間がすごく楽しかったから、一日の終わりにそーちゃんを心配させるのが嫌だった。
 まだ寝たくないな。まだ一緒にいたいな。一生懸命考えていたら、口からふぁっとあくびがこぼれてしまった。
「眠たい?」
「あ、ううん、えっと……」
「たくさん動いて疲れただろう。もうベッドに入ろうか」
 ぐずぐず言ってる俺の頭を撫でて、そーちゃんが布団をめくる。寝かしつけようとしてる。言うこと聞いたら帰っちゃう。楽しかったはずの日の終わりが、こんな寂しい気持ちになるのも悔しくて、遊園地の出口で駄々をこねるガキみたいに、身を固くしてうつむいてしまう。
「ま、まだ眠くない……」
「そう? 眠たそうに見えるけど」
「ちょっと出ちゃっただけだし」
「……僕は眠たいんだけどなぁ」
 言われてハッと顔を上げる。そーちゃんだって疲れてるかもしれない。困らせたかもしれない。怒らないでいてくれるだろうけど、それもなんだか苦しくて、慌てて腰を上げたら、そーちゃんがもそもそとベッドの上に上がった。
「寝よう?」
 俺の布団にくるまって、優しく微笑んで誘ってくれた。胸の奥に、あったかい風がびゅうっと吹き込んでくる。嬉しいのに、ドキドキする。晴れた春の日の嵐みたい。
「……ね」
「ね?」
「寝る……」
 電気を全部消して、隣に潜った。昼間よりも近いそーちゃんのほっぺから、ふわりと花の香りがする。お風呂上がりのクリーム、変えたのかな。思わず指先でちょんと触れたら、「ふふっ」と吐息が唇にかかった。
「ちょっと緊張しちゃった」
「なんで?」
「一緒に寝よう、なんて照れるだろ」
 ほっぺがちょっと熱くなった。でも笑ってる。今日のそーちゃんはずっとあったかい。それが一番いいに決まってる。
「そーちゃん……」
「うん」
「あったかくなっても、一緒に寝てくれる?」
 ぱちぱち、まばたきをする気配がしたけれど、すぐに手をぎゅっと握られた。陽だまりみたいな、ぽかぽかの手で。
「喧嘩した日以外ならね」
 そっか気をつけよ、なんて柄にもなく思っちゃった。そーちゃんといると、いつもより優しくなれる気がする。それはそーちゃんを守りたいからってだけじゃなくて、こんなふうにちょっぴりいじわるを言われても、なんてことない顔して抱きしめてやりたいような、今まで知らなかった気持ちや心地。
「ケンカしても寝てやるし」
 あれ、さっきより素直になれた。