小さな手のひら

#リプもらった番号のワードを使って文を書く 3.レヒトラオート(手のひら 栞 揺れる)より


「もみじの葉っぱが、怖かったことあってさ」
 さくさく、赤や黄色に彩られた道を歩きながら、環くんが話しだす。
「赤んぼの手のひらみてーじゃん」
 そうだね、と僕はうなずく。環くんにもこんなに小さな頃があったんだよな、とふと思って頬が緩む。
「おふくろがさ、『あーちゃんの手のひらみたいだね』って言って、みんなで琹にしたことあんだけど」
「なくしちゃった?」
「……捨てちゃった。理と離れてから、怖くなったから」
 ひときわ大きなもみじの木の下で、環くんが立ち止まった。半歩先を歩いていた僕は、振り返って少しだけ後戻りをする。
 見上げた空は、溜め息が出そうなくらいに深い赤だ。その全部が、優しい秋の風に吹かれて揺れていた。平日の昼間で人通りのない公園の隅で、さわさわと葉のこすれる音だけが鳴る。
 環くんは何も言わなかったけれど、つい距離を詰めて、熱い手を握った。
「バイバイ、って手ぇ振ってるみたいなんだもん。秋になるたび、もう会えないんかなって、泣いてた……」
 指先のように細い切っ先の隙間から、青い空がちらちらと瞬く。まるで、環くんの揺るぎない心が、秋の思い出に塗りつぶされているみたいに。
「……あ」
 ひらり、と真紅の葉がひらめいて、二人がつないだ手の上に落ちた。これじゃあ、僕たち二人の内緒話に、もみじが割って入ったみたいだ。
「はは。ちょーレアじゃん」
「こんなのも怖い?」
「んーん。昔の話だもん」
 環くんはもうなんてことないって顔をして、それを地面に返そうとした。だけど僕が、寸でのところで止めた。環くんと二人でいる時、起こること全てが特別に思えてしまうのは、僕のよくない癖だ。
「なに?」
「あ、ええと……もったいないかなって」
「そーちゃん欲しいの?」
「う、うーんと……」
 欲しかったわけじゃないけれど、いらないと言うのも違う気がして、僕はきょろきょろ辺りを見回す。幹の根本に、同じくらい綺麗なそれを見つけて、環くんに断るのも忘れて、拾い上げるのに夢中になった。
「これ、……こっち、君にあげる」
「くれんの? なに?」
「僕が、拾ったから……それで、その」
 おそろいにしよう、とは言えないけれど、環くんがきっと忘れるために聞かせてくれた今日の話を、僕は大事に覚えていたい。
「こっちのほうは、琹にしてもいい?」
「……そっか。じゃあ、こっちもよろしく」
 思いがけず、僕の手の中で、小さな手のひらがふたつ、重なる。こっちが僕で、こっちが君、なんて言ったら、さすがに図々しいかな。