喧嘩

 君と寄り添うことを諦めないでこられた。なのにいつも喧嘩するたび、大丈夫だと思えないのはなぜだろう。どうして何度でも怖くなるんだろう。ダメになったことなんて、一度もないのに。
「喧嘩しないコツ? 喧嘩するほど仲がいいってことじゃないか」
「前よりずっと、言いたいこと言えるようになっただろ」
 僕より大人のメンバーはそう言うけれど、本当にいいことなんだろうか。
「いつも泣いちゃってごめん。そーちゃん、いつも悲しそうな顔になる」
 喧嘩するたび泣きべそをかく君が、怒って寝てしまう前にめずらしく涙を拭いたから、いつもならできない話ができた。
「君が泣いてくれるたび、自分の前でこんなふうになってくれる人がいるだなんて、嬉しい気持ちになる自分も、いるんだよ」
「俺もそーちゃんが嫌なこと嫌って言うたび、ちゃんと言ってもらえるんだって嬉しくなる」
 いいことじゃないはずなのに嬉しいから、正しくないことみたいで、怖い。こんなこといつまでも続けてちゃダメなんじゃないかって、君も濡れたまつげを瞬かせる。
「でもそーちゃんは、嬉しいんだろ」
「皆にも、いいことって言われた……」
「でも、怖いんだよな」
「だって、君が僕を間違ってるって言ってくれたら、僕は君を泣かせなくなると思う……」
 いつか泣いてもらえることも、言ってもらえることも、当たり前になったら、喧嘩しないで済むのかな。互いにこんなに心を揺らすことが、喧嘩以外にあるのかな。いつかの静電気が恋しくなって、どちらともなく指先を絡めた。出会ったばかりの頃はむしろ、互いのことで心がざわめくのが、怖かった。