同じベッドに横たわるなり、俺の胸にひっついたそーちゃんが、隠れるように毛布を頭まで引っ張ったから、俺は足がはみ出した。
 付き合う前も何度か添い寝してもらったことはあったけど、そーちゃんを好きになってから、ベッドは俺にとって、ステージとおんなじくらい特別な場所だ。いつもは少し下にある、うつむきがちなちっこい顔が、ほんの鼻の先まで迫る。
 カメラの前では、あんまりキレイで、息なんかしてないんじゃねーのって時もある。そんな人の温かな吐息は、安らぎのかけらなんかいっこもない、立派な毒だ。前にそんな文句を言ったら、「君が変えたんじゃないの」って笑われた。
 俺のせいで、毒に変わったらしいそーちゃんが、俺に拒否られた唇を、俺の心臓の上辺りに押し付ける。無言の時間が続いているのに、なんだか文句を言われているみたい。だけど、そんな時の唇を、そーちゃんはあまり俺に見せない。物言わないそーちゃんが見せてくれるのはいつだって、出会った時と同じ三日月みたいな、緩やかな弧の形だけ。
 キレイな唇だな、って思った。初対面で気付いたのは、その日舞ってた桜の花びらと、よく似た色をしてたから。淡くて、薄くて、話すたびに開くその隙間から、散って消えちゃいそうだった。だから、恋人同士になれた今でも、そーちゃんの唇を食むのは、ちょっと怖い。
「……あのさ」
「ん」
「寝れねんだけど」
「……うん……」
「いや、寝んなし……」
 最初は俺も、寝かしつけようとしてたけど。こんなことされると思わなかった。ひとって、大人になっても心の底に、赤んぼが持て余してるホンノーみたいなのが残ってて、口元に何か持ってくと、吸ったり噛んだり舐めたりしてくる。だんだん汗ばんできたそこからも、ちゅう、ぷちゅ、と怪しい音がし始めた。
「もー……。指しゃぶりじゃねーんだから」
 たまらなくなって毛布をはがすと、うっとりと目をつむった、そーちゃんの顔があらわになった。急に隠れたがるもんだから、今夜は見られたくないのかなって、ちょっと気を遣ってやってたのにな。
「……ばか」
 とも思えば、自分勝手に寝返りを打って、そーちゃんは自由に離れていく。こんなもんじゃ仕返しにはならないけど、仕方なく真っ白い額に、かわいいキスだけを落としてやる。恋をして、抱いて、俺のものにしたって、振り回してやろうと思えるほど、俺にはそーちゃんは丈夫そうに見えない。
 おっかないって言うくせに、ってそーちゃんは苦笑いするけれど、何年経っても、一緒にいても、そーちゃんのキレイなところを、守ってたい。世界中の人に知られたって、あの日桜吹雪の中で、俺に笑いかけてくれたそーちゃんは、俺だけのもんなんだから。