世界の終わりが今訪れたとしても

 神様──。いつか愛する人の死のほとりで、名も無き誰かを呼んでは祈った。そして今また、同じ祈りを捧げている。視界に弾ける銀テープの向こうから響く、割れんばかりの歓声の中で。
「そーちゃん!」
 ああ、アンコールだ。ステージを駆け回っていた環くんが、こちらを目掛けて走ってくる。全力で飛びつかれたのに心の準備ができていなくて、情けなくも後ろに倒れ込んでしまった。
「わっ……そーちゃん、ごめん!」
 ぽたぽた、汗が頬に滴り落ちてくる。急に大きな声を出すから、みんながびっくりしてるよ。スポットライトが太陽みたいだ。ずっとこの場所で生きたかった。
「へーき? 痛くねえ?」
「……環くん」
「なぁに? どした?」
 神様、僕は──考えるより先に涙があふれた。ずっとこの場所で生きたかった。そして、この場所とともに死にたかった。ステージとともに死にたいと願うことは、その他のいかなる時も生きたいと願うことにつながってしまった。だから生きてきた。文字通り帰る場所がなくても、誰かにこの夢を知っていてほしくて。誰かにこの音を覚えていてほしくて。
 だけどこの場所に初めて立った時、終わらない夢が始まったのだと思った。決して死ねはしないのだと悟った。一つとして同じもののないステージは、いのちだ。その全てが「生」そのものだった。
 なら、終わりはどこにあるのか。
「僕は……もしもステージを降りる日が来るなら、君と一緒がいい」
 僕はステージを終わらせることができないと知った。僕が死んでもこの場所は、また違う誰かとともに生きていく。僕のものにはならなかった。僕の夢を叶えてくれたのに。
 だけど世界の終わりが今訪れたとしても、幸福でいられるだろうと信じられる。夢を叶えた僕の隣で、彼が僕に一つの「終わり」を選ばせてくれたから。
「環くん、君を愛してる。ずっと隣にいて、僕が死ぬその時まで」