キラキラ

 仕事帰りにデパートの前を通ったら、バレンタインフェア! ってでっかく書いてあって。明日までって書いてあって。なんか見とかなきゃって思って急いで入っちゃった。
「おお……」
 女の人ばっか。みんなの頭が全部、俺の顔の下にある。なんだか富士山になった気分。天を見上げると、チョコレートやさんの名前の看板がたくさん並んでた。カタカナばっかの店名はどれも高そうに見えるし、でもいっこも覚えられない。
「ご試食いかがですかー」
「あ、イタダキマス……」
 差し出されるがままにつまようじを受け取ってしまった。口に含むと、ちょっとしょっぱい。塩キャラメル、みたいな味。
「んむ……?」
「岩塩がまぶしてあるんですよ」
「ほー……」
「当店ではこれが一番人気ですね。あと……」
 アーモンドだとかマカダミアだとか、店員さんが色々説明してくれたけれど、俺は自分が食べたチョコに目を奪われた。チョコの上で、透明なつぶつぶがキラキラしてる。たぶん岩塩、って言ってたやつ。
「……これ、ください。ふたつ」
「ありがとうございます!」
 もっと色々見る気だったけど、食べといて、ちゃんと美味しくて、他のも見ますなんて気にはなれなかった。カンペキ流されたなって思ったけど、キラキラがキレーだったから、いいや。それにこれならきっと、そーちゃんも食べられる。
 持ち慣れない小さな紙袋を受け取って、バンちゃんに居場所をラビチャしたら、すぐに迎えにきてきてくれた。
「環くん、お疲れさま」
「あ」
 後ろの席にそーちゃんが乗ってた。覚えてたのに忘れてた。忘れ物したの、なんてバンちゃんが訊いてる。
「えっと」
「テレビ局に戻ろうか?」
「あ、へーき。乗ります。ゴメンナサイ」
 そーちゃんが不思議そうに俺の顔を見た後、紙袋に目を移して、ぱっと顔を逸らした。そうだよな、気付いてるよな。これがバレンタインのチョコだってこと。
「そーちゃん、あのさ」
「う、うん」
「チョコを、買いました」
「そ、そう……」
 あれ、素っ気ない返事。あんまり嬉しくなかったかな。そんなに甘ったるくなかったし、食べたら美味しいと思う、んだけどな。
「……好きじゃない?」
「好き……かどうかで言ったら、あまり食べないかもしれない、かな……」
「そっか……。だよな」
 しーん、と車内が静まり返った。どうしよう、これ。別に自分で食べても、いいんだけど。胸がきゅっとなるのをこらえていたら、バックミラーに映るバンちゃんと目が合った。
「環くん、誰に買ったの?」
「あ、えと」
 そーちゃんとバンちゃんだよ。いつもありがとう、って言いたくて。でも、困らせるんじゃないかな。二人のぶんって言ったら、そーちゃんはきっと断れない。
「うんと……」
「聞きたいな。やっぱり内緒?」
「えっと……そーちゃんとバンちゃん、です」
 内緒、って苦手だ。バンちゃんはそれが分かってたのかもしれない。観念して白状したら、まんまるの瞳が、こっちを見た。
「僕の……?」
「えっ……誰のだと思ってたん」
「だ、誰か……女の子とか」
「……そーちゃん、バレンタインって何の日か知らねーの?」
 びっくりして訊いちゃったけど、知らないわけないよな。そーちゃんのほっぺが、かーっと赤く染まっていく。
「わ、なんか……ごめん」
 そーちゃんにも、赤くなってるのが分かったみたいで、ほっぺを両手で隠してうつむかれてしまった。でももう耳まで赤い。可愛い。カバンにしまっといて、寮で出せばよかった。
「今すぐ食べちゃいたい……」
「そ、そんなに美味しそうなチョコレートだったの……?」
「ちげーよ! そーちゃんが」
「はいはい、いったん事務所に戻るからねー」
 俺のぶんもあるなんて嬉しいなぁ、ありがとう、ってバンちゃんはニコニコしてた。俺もなんだか嬉しくて、顔がほんのり熱くなる。だけどやっぱり、ちょっと悔しい。自分のだ! って真っ先に思ってもらえるように、たくさん「大好き」って伝えるようにしなきゃ。
「環くん」
「んっ」
「ありがとう……」
「へへ。うん」
 今年のチョコは、ちょっとしょっぱい。でも、それがキラキラ光ってるんだ。箱を開けたら、そーちゃんもバンちゃんも、きれいだねって言ってくれるはず。