ちっちゃなごほうび

 終電間際でガラガラの電車のすみっこ。コートにマフラーを巻いたもこもこのそーちゃんのおでこから、つつっとしずくがこぼれていった。
「そーちゃん、汗かいてる」
「あ、うん……。今日は暖かいね」
「マフラー取ったら?」
「うん。暑かったらそうするよ」
 そーちゃんは素直に返事をしたけれど、〝もこもこ〟を減らそうとする気配はない。真っ白なほっぺが赤くなってる。りんごみたいで触りたくなる。
「暑いんじゃねーの?」
「うん……。少し暑いんだけど」
「具合悪い?」
「あ、そうじゃなくて。脱いで、結局冷えたら元も子もないだろ」
 真面目なカオでそう説明して、空気に晒した両手をぴとっとほっぺに当てる。ほっぺを冷ましてるつもりなのかな。可愛くて、ぎゅってしてやりたくなる。
 暑がってるのが、──冷えないように気をつけてるのが、可愛くて。うるさく言ったかいがあったなって、ついほくそ笑む。今夜は湯船の温度をちょっと低くして、二人でお話しながら、のんびり浸かりたいな。



 忍び足で寮に戻って、コートやマフラーを片付けて、大急ぎでそーちゃんの部屋へ。
「すぐお風呂入る?」
「うん。何か話したいことがある?」
「んーん」
 そういうのは明日に持ち越し。ニットまで脱いでちょっとすっきりした姿のそーちゃんを抱き寄せて、首もとに鼻をうずめる。
「なぁに?」
「んーん」
「……あの、ちょっと、汗くさいだろうから……」
「いーの」
 すん、と息を吸い込む。そーちゃんのにおいと、そーちゃんの言うとおり、ちょっと汗のにおい。レッスンやライブの後とは違う、暑い日だった時のにおい。
 唇に触れたそーちゃんの肌が、じわじわと熱くなってくる。そーちゃんの身体に、どくどく血がめぐってる。
「もう、恥ずかしいから……」
 みんな寝静まってる時間なのに、胸の奥がきゅんとする。お風呂でちょっかい出しちゃわないよう、気をつけなくちゃ。