お腹いっぱい

 夕べそーちゃんが落ち込んでたから、内緒でみっきーに相談したら、晩ごはんをマーボー豆腐にしてくれた。そーちゃんのは、真っ赤な「そーちゃんスペシャル」。みっきーは「壮五だけ特別」なんて言ったりしないで、「ちょうど材料を使いきれそうだったから」って上手い言い訳をしてくれた。
 そーちゃんは嬉しそうに頬張って、めずらしくご飯をお茶碗半分くらいおかわりして、ご機嫌になったと思ったのに。
「おやすみなさい」
 俺の目の前で扉が閉まった。一人で寝たいです、の合図だ。扉の前でしばらく考える。鍵をかけないってことは、やっぱり入っていいんじゃないのかな。
「そーちゃん、……入りまーす」
 真っ暗な部屋をそろりそろり進んで、今日もそーちゃんのベッドに潜り込む。相変わらず背中を向けているそーちゃんは、文句は言わなかったけれど、ふう、と小さく溜め息をついた。
「やなこと、あった?」
「……まさか。嬉しいことがあったよ」
 だろうな。晩ごはんのそーちゃん、ニコニコだったもんな。なのに、どうしてキョヒるのかな。昨日の傷が残っているなら癒してやりたい。
「そーちゃん、ぎゅっする」
「あ、やだ……ええと、やめて」
「なんで。今日はする」
「今日はだめ……本当に、やめて」
 イヤそう、というより、心から弱ったような声がする。別に困らせたいわけじゃない。だからこそちゃんと理由を知りたい。
「教えてくれたら、しねーけど」
「その言い方は、ずるくないか……」
「だって、やなこと分かってたい」
 ずるいかな。優しくしたいのにな。こんな気持ちすらすれ違うのなら寂しくて、きゅっと唇を噛んだら、そーちゃんが首だけで振り返ってくれた。
「……笑わない?」
「笑わねーよ」
「本当に?」
「笑っちゃったら、なんでも言うこと聞く」
 腹筋十回くらいできそうな沈黙の後、そーちゃんが消え入りそうな声でつぶやいた。
「お腹、いっぱいだから……」
 そんなこと言われたら、やることなんか一つに決まってる。
「あ! だめだってば!」
「ぎゅってしねーから。触るだけ」
「触るのもだめ……!」
 背中から手を回して、優しく優しくお腹に触れる。薄っぺらいはずのその部分が、今日はいつもよりふっくらしてる。
「なんでだめなん?」
「だって間抜けだし、恥ずかしいだろ!」
「ぽんぽんのそーちゃん、かわいーじゃん」
「ばか!」
 げしげし、蹴りが飛んでくるけど、そんなの痛くもかゆくもない。 かわいい、かわいい、お腹いっぱいのそーちゃん。怒ってるけど、今きっと、幸せなんだな。