それでも光

※星巡りパラレル

 「暁」の名を冠したその星は、語る者皆に「常夜」と喩えられ、光なんか欠片もないんじゃないかと、僕も知らず知らずのうちに思い描いていた。
「見とれすぎてこけんなよ」
 人が住む場所の灯りより、砂利に混じる鉱物のきらめきが、時々容赦なく視界を白くする。彼は故郷の地に足をつけても、すぐに覆面を外すことはなく、僕の手を引いて真っ直ぐ人里を抜け、仄明るい水晶の森へ身を滑り込ませた。
「ここはあんまり、光らないんだ」
「濁ってるのが多いから。でも、この奥が一番綺麗に見える」
「今は、見えてる?」
「まさか。でも、自分の星なら音だけで動ける」
 草木でできた森のように、人が踏み分けた道はあったけれど、風に翻る僕の衣服が、六角柱の端に引っかかって裂けた。かまわず彼を追い続けて、広い場所へ出るのを待つ。
 人が生を営む時間すべてが闇というわけではないこの星は、暁の刻を迎える前のほんの少しの間だけ、本当の「夜」が訪れるのだという。
「着いた。……座っていーよ。疲れたろ」
 硬い石が氷のように均された水底のような空間で、足を止めた。風が止むと同時に、ヒールの音がいやに響いた。脱いで素足をつけると、水や氷より冷たくはなかった。
 もともと強い光を放っていたわけではない水晶たちが、次第に存在感を鎮めて、闇に世界を明け渡す。
「……暗いところなら、瞳をさらせるって、本当だったんだ」
「信じてなかった?」
 おもむろに覆面を外した彼が笑んだ。その表情は闇に溶けてしまうかと思ったけれど、星明かりがわずかに捉えるのを助けた。
「どんな色、してる?」
「よく見えないけれど……たぶん、僕の星の空の色をしてる」
「『はじまり』の星、な。この宇宙のはじまりって、そういう色、してたんかな」
 僕が育った星を表す言葉もいくつかある。そのうち、最初に「はじまり」の呼び名を教えられた。あの星は、不思議なのだ。生まれた者皆、初めに「はじまり」の存在を知るはずなのに、育つにつれて目にするものは「おわり」に類するものしかない。
 僕も大事な人をなくした。決められた歌しか歌えなくなった。日々祈る先はなんらかの「おわり」しか有り得ないことを分かっていた。固く組んでいた手をほどいて引っ張ったのが彼だ。
 やがて「常夜」と言われる星に真の闇が訪れる。反して空には無数の恒星が灯った。
「ううん……宇宙の『はじまり』は」
 死んだあの人が口にした歌によれば、今見上げたとおり、こんな色をしていたはずだ。決して明るくはなかった。あの神殿はもうそんなことも忘れた。忘れたまま、常の「はじまり」を祈り続けている。
「あんたが逃げらんないの、わかってるけど。ここなら違う歌、歌っても大丈夫」
 瞳をさらしたままの彼が初めて、僕の頬に手を伸ばした。彼は本当に見えているんだろうか。初めて見たはずの僕の姿のことを、何も言ってくれなかった。
「君のこと、光にたとえるけれど……怒らないで」
 像も色も、それを成す物の大元は光だ。同じ現象の下で生きられないということは、同じ言葉を交わせないというずっと呼びたかった彼の名を唇で紡いだ時、光にも闇にも傷まないはずの両目から、涙がこぼれた。