帰ったらごはん炊こ

「うう……そーちゃんもう歩かない」
「いや頑張れよ」
 道端でぺたーんと尻餅をついた相方の顔を、しゃがんで覗き込んでやる。酔った時のわがままは地味に種類が豊富で、「歩けない」の時もあれば「歩きたくない」の時もある。こないだは千鳥足で「走りたい」って言われた。
「で、今日はどうすんの。おんぶ?」
「担いで」
「えっと……そーちゃん歩きのプロー。ランウェイの王様はあんたに決定ー」
「早く担いでってば」
 ボケてもダメだった。飲み会が長引いて俺も疲れてんだ。そーちゃんもたぶん一緒で、不機嫌そうな顔をしながら、俺の胸にぐりぐり頭突きしてきた。
「いいけど、おんぶか、譲っても抱っこで勘弁して」
「なんで」
「危ねーからに決まってんだろ」
 いくらそーちゃんが軽いといっても、身長175の男を肩に載せるなんて神経を使う。ましてやそーちゃんはぐでんぐでんだし、ろくに掴まれもしないのに、間違って手を滑らせたらと思うとぞっとする。
「やだ。担いでくれるまで帰らない」
「もー……担いだら帰ってくれんの」
「担いだら帰る」
「……約束だかんな」
 置いていきたくはないので、一分だけ頑張ることにした。立ち膝の姿勢になって、そーちゃんの両脇を持ち上げる。掴んだお腹を水平にして肩へ載せると、そーちゃんのバランス感覚がいいおかげか、安定させるのは予想より難しくなかった。
「はいできた。下ろすぞ」
「まだ! 立って!」
「だから危ねーって」
「立たなきゃ下りない!」
「んもー……」
 ほんの一瞬なら平気かな、と油断したのが間違いだった。ドキドキしながらそろりそろりと立ち上がると、そーちゃんはヒトの気も知らないで、あろうことか手足をバタつかせ始めた。
「ひゃあああ怖い……!」
「だから言ってんじゃん!! 暴れんな!!」
「あはははは真っ逆さまー!!」
「何が楽しいんだよ!! あっバカッ……」
 細い腰が俺の腕からスルッと抜けた。そーちゃんは「わー」なんて間抜けな悲鳴を上げながら、俺の背を滑り下りていった。
「そーちゃん!!」
 慌ててしゃがみつつ太ももを抱えたら、そーちゃんがびゅんと脚を振り上げて、俺の手を跳ね飛ばして――振り返った先で、軽やかに倒立前転を披露した。
「とっとと……わっ」
 けどやっぱり酔っぱらいは酔っぱらいで、よろめきながらぺちゃっとまた尻餅をついた。止まりかけた心臓が、まだバクバク音を立てて疾走してる。
 そーちゃんの手のひらの砂をはたいて、問答無用で横抱きにした。本当はおんぶが一番ラクだけど、顔を見てやんなきゃ、またぐずる気がする。
「ふふ。面白かった」
「そらよかったな」
「上手だった?」
「おー」
「10点くれる?」
「着地ミスったから8点くらい」
「えー」
「キレーに決めたら満点やっから」
「ふふ。じゃあ明日ね」
 嬉しそうに微笑んで首元にしがみついたそーちゃんは、安らかな寝息を立て始めた。今度から、寝かしつけてから運搬しようかな。さっきは本当に怖かった。せがまれてももう絶対しない。たまには乱暴に扱ってほしいって、そーちゃんがなんとなく寂しく思ってるの、分かってっけど。
 ゆっくり歩きながら、遊んでほてったおでこに、ちゅっと口をつけてやる。眠ったままのそーちゃんは、満足げに笑ってる。俺は、安心して大事にされてるそーちゃんのほうが好きだし、そーちゃんを大事にしてる時の自分が好き。