ファースト・ファーストバイト

「ファーストバイトに決定だって」
「ふぁ?」
 間抜けな返事をしたけど、聞いてなかったわけじゃない。ベッドに腰掛けてマネージャーとラビチャをしていたそーちゃんは、おあずけ中の俺を振り返って、不満そうに眉を寄せた。
「ダイヤモンドリリーさんの……先週、打合せに行っただろ」
「あー。エーゴいっぱい出てきたやつか」
「分からないことがあったら僕に聞くか、ちゃんと調べてって言ってるだろ」
 そーちゃんはいつも通り小言を言うと、ふいっとスマホへ向き直ってしまった。ゆったりとした寝間着姿のそーちゃんは時々、綺麗に片付けられた部屋よりも俺の部屋のほうが似合う。要は今、ちょっと怒ってるように見える。俺、静かに「待て」を聞いてたのにな。
「ラビチャ終わったら聞こうと思ってたんじゃん」
「いいよ。後で資料まとめるから」
 思いつきで言い返したのがたぶんバレてる。だってもともと、いちゃいちゃしたくて呼び出して、じゃあ打合せが終わってからねって、妥協してもらって引き止めてた。
 そーちゃんとくっつきたいばっかで、仕事は後回しにしてたのが気に障ったのかな。でも話題の撮影はもう少し先だ。それなら内容が問題なのか。そーちゃんの家は絡んでなかったと思うけど。
 こわごわ自分のスマホを手繰って、「結婚式」「ふぁ」で検索してみる。成果のなさはまあ予想してた通り。
「あの、なんだっけ……ふぁ……わっ」
 ちょっと緊張しながら声を掛けたら、背を向けていたそーちゃんが、うつ伏せの俺をひっくり返した。俺はずっとごろごろしてたけど、なんだか押し倒されたみたいな格好になる。
「ら、ラビチャ、もういいの」
「……もういやだ……」
「え、え? なんか言われた?」
 まさかそーちゃんを怒らせたのはマネージャー? 一瞬混乱したけど、俺のほっぺをつまんできたそーちゃんが「なに寝ぼけてんだ」って目だけで言ってた。
「僕は楽しみにしてたのに」
「へ? さつえー?」
「他に何があるんだよ」
 一応ちゃんと聞いてはいた、打合せの内容を必死に思い出す。式場だかパーティーだか忘れたけれど、ケッコンシキ絡みの会社のモデル。にしてはめずらしく、花嫁さん役の出演は手のみ。俺たちがメインで、新郎の見せ場をテーマにした広告を作る。
「つっても撮影別だし」
「分かってるよ! どうせつまらないことだよ……」
「んなこと言ってねーじゃん。一人でキレんのやめろよ」
 俺もキレそうだったけど、ぐっと我慢して体を起こした。そーちゃんはちょっとびっくりしてたけど、俺を押し付けたりせずに腰を退いた。そーちゃんがキイキイしてる時、その反対の態度を取ってやると、中和されるみたいにふっと落ち着くことがある。
「ごめんな。言ってよ」
 そういえばそーちゃんは最初から、ずっと思い通りにいかないみたいな顔をしてた。たぶん俺がだらしなくてキレてるんじゃない。そーちゃんが言えない時ってそういう時。酒に頼らなくても話してくれるかな。
「つ、つまらないことだと思う……」
「はい」
「……撮影で、タキシードを着るだろ」
「うん」
「十代の君のタキシード姿だなんて、貴重だしありがたいなって……」
「えっと、嫉妬ってこと?」
「言うと思ったよ!」
 つい口を挟んだら、ばふっと胸に王様プリンが飛び込んできて、目の前がそーちゃんから天井に変わった。
「おお……そーちゃんが八つ当たりした」
「この話は終わり。おやすみ」
「え、ちょっと」
 可哀想なプリンと俺を転がしたまんま、そーちゃんは出ていってしまった。カッカしてたくせに、スマホも資料類もきちんと回収済み。手ぶらで追ってもダメだろうな。短気を起こした俺も悪いし、今日のところは諦めて、プリンを慰めながら寝ることにした。
 図星を突かれたってわけでもないみたいだった。そもそもケンゼンなお付き合いだの将来がどうだの、そーちゃんのうじうじが原因のケンカは、今まで散々やり尽くしてきた。女のヒトとの共演だって、お互いモヤっとすることはあっても、いちいち不機嫌になったりしない。最近のそーちゃんなんかやきもちをダシに、甘えてこれるようになったくらいだ。
 そういや、楽しみにしてたっつってたな。ケッコンシキがしてえのかな。
「や、だから撮影別っつってんじゃん……」
 途方に暮れたので、とりあえずマネージャーに「ふぁ……なんつった?」と送ってみた。返ってきた言葉を検索ボックスに入れたら、答えは出たけど、内容にがっかりした。いや、俺は超嬉しいけど、そーちゃんも甘い物好きだったらよかったのにな。
 翌日はいつも通り学校へ行って、夕方からは七人での番組収録。皆いたから間は保ったけど、そーちゃんはやっぱり俺にだけツンケンしてた。仕事後は寮に直帰する皆を見送って、俺だけ事務所の給湯室に寄った。バンちゃんに頼んで、和泉家のケーキを買ってきてもらったのだ。
 というわけで、寝支度を終えた俺の右手には小さなホールケーキ大の箱、左手にはナイフと皿とフォーク。
「そーおちゃん」
 扉を蹴飛ばすと怒られるので、ノック代わりにゴンゴンゴンと頭突きをした。慣れない音に驚いたからか、そーちゃんは案外すぐに出てきてくれた。
「な、なにごと……」
「入れて。予習しよ」
「は?」
 白い箱には店名が書いてある。中身は何だか、そーちゃんにもすぐ分かったはずだ。メンバーのウチの食べ物とはいえ、甘い物は甘い物だ。ロコツにウッて顔をされたから、そーちゃんの弱点を突いてダメ押しをする。
「予習。ファーストバイトなんてしたことないだろ」
「あ、当たり前だろ……。分かったよ」
 こんな夜中にお菓子なんて、とぶつくさ言われたけれど入れてはもらえた。そーちゃんの気が変わらないうちに、絨毯の上にあぐらをかいて、イチゴと生クリームの真っ白なケーキを取り出す。
「おお。うまそー」
「崩すのがもったいないな」
 積もりたての雪に隠された宝石みたいに、ちらちらアラザンが光ってる。苦手だってあそこのケーキはどれもすごくきれいだから、それだけでそーちゃんの機嫌が少し直った。和泉家の父ちゃん母ちゃん、様様、ありがとー。さてここからは俺一人の勝負だ。
「えっと、俺らが新郎だから……」
「本来は『一生美味しい料理を食べさせてあげる』って意味だけど、最近は『愛情のぶんだけ』が定番かな。食器もフォークじゃなくて、大きなスプーンを使うんだよ」
「えええ……?」
 出だしからつまづいてる。急いで「ファーストバイト」「愛情のぶん」で検索した。そーちゃんが酔ってる時、スマホいじると超怒られるから、素面でもあんまり触りたくないんだけど。
「どこ撮られんだろ。クリーム付くって書いてあるけど」
「そこがウケるところで、シャッターチャンスみたいだよ」
「そーちゃん、口の周りクリームだらけにして笑ってられんの?」
「それをこれから練習するんだろ」
 それもそうか。とはいえそーちゃんがなかなかケーキに手をつけないので、俺が先にナイフを握って、一口サイズのスポンジを切り出してやった。
「はい、あーん」
「ずいぶん控えめだね」
「食わせる側撮るかもしんねえだろ」
「……そっか」
 そーちゃんは髪を耳に掛けて、小さな口を開けながら首を伸ばした。白い指と比べると、覗いた耳がほんのり赤い。
 俺はホントに、一言多いんだよな。ダメだって分かってるのに、思ったこと全部、口から出ちゃう。
「……愛情のぶんだと思った?」
 途端、そーちゃんがすごい速さでケーキを切り分けたと思ったら、それを叩きつける勢いで俺の口に押し込んできた。押し込んできたというか、俺が本能で口を開けたから入ったようなもんだ。
「ほーはん、はへほほははいへふに……」
「どうせ僕ばっかりだよ!!」
 ダメだ、やっぱり怒ってる。はみ出したケーキを両手で支えながら、次の一手を懸命に考えた。ホール四分の一なんて、さすがの俺も一口じゃ無理だ。ていうかそーちゃん、最初っからフォーク使ってないし。
 口に物が入っててよかった。そーちゃんは本当に怒ってたけど、手がクリームだらけで全然怖くなかった。そう言ったらそのまま引っぱたかれそう。
「そーひゃん……んん、もうさ、言ってよ。黙って聞くから」
「いい。大したことじゃない」
「大したことじゃないなら言えばいいじゃん」
「言いたくない……」
 俺ばっか言いたいこと言っといて勝手かもしれないけど、さすがに腹が立ってきた。昨日だって我慢したし、今日も俺なりに歩み寄るつもりで、こういう形で話す場を作ったのに。
「……あっそ。もういい」
 低い声を出したら、うつむいていたそーちゃんがびくっと顔を上げた。俺が出て行くと思ったんだろうけど、解放してやるのはもう少し先だ。
「覚悟しな、ほら!!」
「ちょっ、はまひふっ、んんっ……」
 無理やり口を開けさせて、そーちゃんが俺にしたのと同じように、大きめの一口を突っ込んでやった。ただしさすがにホール八分の一程度だ。加減も愛情だって覚えとけ。
 そーちゃんは涙目になりながら、一生懸命口をもごもごさせていた。全部入り切らなかったとはいえ、一度くわえた物を出すなんてできないんだろう。
 食べ終わるまで待ってなんかやらない。自分の手や顔がクリームだらけなのもかまわないで、収まらなかったスポンジにかじりついた。
「んっ……!」
 べたっとそーちゃんの手が俺の襟元にひっつく。俺もそーちゃんを逃すまいと、べたべたの手で両頬を包んでやった。もう、ある意味取っ組み合いのケンカだ。分けてもらった物を飲み込まないうちに、唇のクリームを舌で拭う。そのまま口の中へ進入すると、さすがに強めに抵抗された。
 クリーム味のそーちゃん相手に、俺が勝てないわけがない。
「んっ、んぅ……ふぁっ」
 唇と歯茎の隙間をなぞって、舌の上で滑るクリームを溶かして。なめらかなそれは唾液と混ざると、ぬるぬるしてすごくいやらしかった。ぴく、ぴくと震えるそーちゃんからだんだん、異論以外の声が漏れだす。
 だけど、容赦なく腕を拘束しとけばよかった。ごくん、ごくんとスポンジを飲み下したそーちゃんが、俺を思い切り突き飛ばした。
「いで!! あぶね!!」
「人様のケーキでこういうことをするのはさすがに倫理観を疑う!!」
「あ、忘れてた」
 みっきー、いおりん、ごめんなさい。他人の店のならいいってわけでもねーけど。
 そーちゃんは顔を真っ赤にして、目をつり上げてフーフー言ってた。なんか、ホントにそーちゃんの嫌がることしたかも。先にキレたそーちゃんのほうが悪いと思ってたけど、話してもらえなくてもしょうがない気分になってきた。
「ずるいだろ、そんな顔するの……」
「んーん……ごめん。出直す」
 俺が悪い。昨日だって、さえぎったのは俺だし。完全に戦意がしぼんで、残ったケーキを箱へと片付けていたら、そーちゃんも腰を上げた。
「こっち向いて」
 口元にヒヤッと冷たいものが触れた。何かと思ったらウエットティッシュだ。そーちゃんのほうが唾液やなんかでべたべたなのに、俺の顔を真っ先に拭いてくれた。
「そーちゃん……もおおお……」
「あっ、こっち向いてって言ってるだろ」
 おかげで脱力してしまって、そーちゃんの肩におでこを埋めた。そーちゃんがどんなに怒ってたって、やっぱり何かを隠させたまま置いていけない。一晩一緒にいるしかないのか。また余計なことを言いそうで怖いのに。
「……撮影……」
 ぽつっとつぶやいたそーちゃんの肩が揺れたのは、たぶん自分の手を拭いたからだ。動けないままだった俺の背中を、しっとりと冷たい指が優しく寄せた。
「本当に楽しみだったんだよ。タキシードを着るって決まってたから。だけど、タキシードを着るって決まってたから……ダメだった」
「……やっぱり、そーいうの気にする?」
 世間に嘘をつくだとか、親になれないかもだとか、世にいう普通の幸せだとか。今までそーちゃんが俺に言ったそういうことは、全部そのままそーちゃんに返した。俺を心配しながら自分はかまわないだなんて、自暴自棄で付き合ってんなら別れろって泣いた。
 そーちゃんはそんなわけないって言った。だけど何もいらないとは言わなかった。俺はそーちゃんがいればなんでもいいって思う。だけどそーちゃんは時々、無自覚に望むのかもしれない。俺のことをそう心配するくらいなんだから。
「隣に立ちたいとか、言わないよ。悩んだって仕方ないし……」
「でも、やっぱり思うんだろ」
「思っても、思うだけだよ。思うだけで、君にもそう思ってもらえたらいいって思った」
「俺、そーいうのないって言ったじゃん……」
 そーちゃんは拳をきゅっと握って、指が震えるのをこらえていた。抱き寄せて撫でてやりたかったけど、俺に震えが伝わるのを嫌がりそうでできなかった。
「うん……。だから、僕もかっこよく写って、憧れてもらえたらいいって思った。仕方のないことを言ってるつもりはないよ。今までしてきた喧嘩より、ずっと健全だろ」
 言ってることは分かる。だけど、表情も見ないだって分かる。
「なのに君は、こんなことばっかり……」
 そんな、そーちゃん自身を蔑むみたいな声で笑わないで。
 そーちゃんの体をそっと離して、俺もウエットティッシュを手に取った。顔を拭いてやるってのは半分建前。向き合ったそーちゃんは、笑ってたのに泣きたそうな目をしてた。
「……俺がこだわりなさそーなの、やだった?」
「嫌じゃないけど、悔しい……時々わけが分からなくなって、ぺしゃんこになりそうになる」
 ほっぺを右左と拭うたび、そーちゃんがぎゅっと目をつむる。二人の顔も手もきちんと綺麗にした。そーちゃんはもう笑ってない。
「そーちゃんの仕事はいつも、フツーに楽しみだよ。今度のも同じ。同じだから、余計に嫌になっちゃったんだよな」
「うん……だから、ほら……つまんないことだって言っただろ」
「つまんないってゆーなよ。口に収まんないくらいの愛だろ」
 そーちゃんがおずおず、上目遣いで俺の顔を見てくれて、やっとそーちゃんの頭を撫でる勇気が出た。同じ気持ちじゃなくても、悩みを侮ってるとか馬鹿にしてるとかじゃないって、そーちゃんにちゃんと伝わると思ったから。
「俺も愛はあるかんな。仕事は仕事じゃん。撮影が別ならなおさら、その場でそーちゃんが持ってるもん出すしかねーじゃん。それが楽しみなの」
「だから、本番までどうこう悩んだりしないのか……?」
「悩まねーけど、本番までのやり方で変わるもんもあるのは分かる。だからこうやって予習に来たんじゃん。だけど俺は、やっぱ短気だから……」
 ちゅ、と我慢できずに口づけた。長い雨の後ようやく拾われた猫のような顔が、可愛くてたまらなかった。そーちゃんは大きな目をぱちくりさせたけど、怒ったり呆れたりはしなかった。
「だから、ちゅーしたりくっついたり、俺のせいですぐ変わるそーちゃんが見たくて、がっついちゃうんだよな」
 ごめんなさい、とは一応付け加えた。でも、この癖を直せるとは思えなくて、目を伏せてしまった。代わりに、やましいことはないと示したくて両手を握る。ちゃんと誠意はあると伝わってほしい。
「一緒にいるとかいないとか、ケンカいっぱいしたけどさ。腹くくっても、割り切んないで。我慢しないで、駄々こねてよ」
「……だって、こねてどうするんだよ」
「どうもしねえよ。どうにもなんないからしんどいんだろ。しんどいよなって、ぎゅってしてやる。そーちゃん、一人じゃねーじゃん」
「……」
 返事は返ってこなかったけど、そーちゃんが俺の背に手を回してしがみついた。応えるように、俺もぎゅうっと抱き締め返す。
 駄々をこねたいわけじゃないのも、ちゃんと分かってるよ。
「しんどいことは、なるべく二人でやろーな」
 声もなくそーちゃんがうなずいた。見えてなくても感じ取れたよって言いたくて、背中じゅうを一生懸命撫で回す。さすがにくすぐったかったのか、さっきまでしかめ面するたび唇を噛んでたそーちゃんが、くふふと肩を震わせて笑ってくれた。
「あっあと、ケーキも……ごめんなさい。デリカシーなかった」
「それは……まあ、いいよ。頑張って忘れる。今度はもっとこう、その……機械で生産したコンビニのケーキとかにしてください」
「えっ……そーいう問題?」
 予想外のリアクションが来て、まともな返事が続かなかった。そーちゃんも恥ずかしいことを言ったって自覚したみたいで、みるみる真っ赤になって焦りだす。
「あ、ええと、それはそれで失礼かな」
「そ、そーだな。コンビニスイーツもすげーからな」
「じ、じゃあどうすれば……」
「えっと、俺が作るとか?」
 なに二人して慌ててんだか。思わず飛び出した提案に笑いをこらえていたら、そーちゃんがしばらく黙り込んだのち、神妙な面持ちで俺を見つめた。
「……作れるの?」
 たぶん疑いの問いじゃない。ここで乗るのが男なんだな。
「作る。みっきーに教わっ」
「やっぱり無し。この話は無しで」
「うそうそうそ。内緒で頑張る」
「いいから。聞いてみただけだから」
 そーちゃんは平静を装おうとしてたけど、目がらんと光るのを隠せてなかった。俺がそーちゃんのためだけに作ったケーキでぐちゃぐちゃにされてみたいって、好奇心と興奮でいっぱいになってる。
 そういうのも、だんだん言ってくれるようになるかな。これでまた怒らせて撤回なんかされたくないから、そーちゃんが恥ずかしがりそうな言葉は全部飲み込んだ。セーヨクのために大人になるなんて、俺はホントに短気というかゲンキンなやつだと思う。でも、それでいい。
「あ、もう一度顔を洗わなくちゃ……」
「そーちゃんストップ。歯磨きもすんだろ」
「歯磨きもするし着替える。なに?」
 答えを教える前に、そーちゃんの唇をもうひと舐め。だけどいつものそーちゃんの味だったから、欲張って舌をもうひと吸いした。
「んっ……ちょっと、さっきのごめんはなんだったんだ!?」
「だってもったいねーじゃん!!」
 噛みつく拳をひょいっと万歳させて、もう一度かわいいキスをする。これからも、そーちゃんの思い通りにならない男でいい。悩む暇もないくらい、振り回してやりたい。
 それで、肝心の撮影はどうなったかというと……。二人ともそれぞれ、差し出されたケーキにかじりつく直前のシーンを採用してもらった。
 俺への一口は、俺のでかい口相手にしてはちょっと遠慮がちで、こんなのヨユーで受け止めてやれんよって一枚。一方、そーちゃんへの一口はかなり大胆で、一テイク目で思わず笑ってしまったのがそのまま使われた。驚きと照れで困ったように眉を下げる、あんな可愛い顔は、俺はまださせたことがない気がする。
 だけど俺のこと、一瞬でも思い出してくれたかな? 街中で広告を目にするたび、夢を見ずにはいられない。俺だってこんなときめきにつぶされないよう、必死にそーちゃんを愛してるんだ。