むっつり

 そーちゃんはむっつりだ。
 言葉のチョイスが自分でも気に入らないけれど、心をオニにしてそう言わせてもらう。付き合う前よりいくぶんか無防備になったそーちゃんが、懲りずに机で居眠りしていたのだけど――イヤホンを外してやろうとしてスマホに指をぶつけた時、偶然見つけてしまったのだ。そーちゃんが隠し撮りした、昨年の球技大会の動画を。
 声にならない声を上げながら、そーちゃんをひっぱたくこともできなくて、とりあえず力任せにゆさゆさ揺さぶったら、そーちゃんはすぐに飛び起きた。で、さっきからケンカしてる。
「見に来たいなら来たいって言えばよかったじゃん!」
「だってそれで断られたら……嫌だって言われたのに見に行くより、最初からこっそり見に行くほうがマシだろ!」
「大して変わんねーし、なんでそう考え方が暗いんだよ!」
「なんだって!?」
 五千歩譲って隠し撮りはいい。よくないけど。それより、本人が隣の部屋にいるのに、夜中にわざわざ動画を眺めている意味が分からない。今日はもっと話したかったなとか、でもなんか考え込んでたから邪魔しないほうがいいかなとか、俺が俺なりに悩んでた時間は全部ムダかよ。
「あとそーちゃんの悩みもムダになってんのが気に食わねー!!」
「なんの話だ!」
「思ってることちゃんと言ってくれたら、そのぶん早く仲良くなれたかもしんないじゃん!!」
 そこで目からウロコって顔、腹立つー。さすがに怒鳴りすぎたか、ヤマさん側の壁がドゴンと鈍い音を立てた。
「君は……自分が暗い人間であるつもりはないけれど、前向きだな……」
「いや感心されても」
「今度からちゃんと言おうかな。仲良くなろうとしてくれてるんだよね?」
 もしかして何かしらのボケツを掘ったんかな、と思いかけたけど、後には引かない。なんたって俺はそーちゃんも目を見張る「前向き」だから。
「おー。つってももうガッコーないから、仕事くらいしか見せるもんねーけど」
「十分だよ。これからどんどん、環くんにしかできない仕事が増えていくと思うよ」
 半分なだめるような口調で優しく笑うそーちゃんは今、出会った時から変わらない、「年上の相方」の顔をしてる。俺がよく知る、ミーハーで、権威を持つものに弱くて、イケてるアイドルの前ではふにゃふにゃになっちゃういつもの顔。
「そーちゃんってたぶん、王様プリン一筋の俺より、好きなもんいっぱいあるけどさ。遠くから見るクセついちゃってんじゃねーの?」
「そうかな……」
「そーだよ。有名人ばっか好きだからしょーがねーけどさ。……俺は近くにいるけど、俺のことは、そーいうふうには好きじゃない?」
 言ってて、違うんだろうなって気がフツーにした。そーちゃんは、俺のことがそれなりに好きだと言ったって、TRIGGERやなんかを見上げるみたいな、キラキラした気持ちで好きなわけじゃない。かといってどんなふうに好きかもよく分からないんだけど、そーちゃんにとって俺は、近づいたり触ったりしたくなるような「好き」じゃねーのかも。
「君、の、ことは」
「ん」
「考えるより先に、隣にいることが当たり前になってしまったから……」
「考えるひまなかった?」
「というか、お陰で、やめたくないとか、離れたくないとか、消極的なことばかり考える癖がついたかもしれない」
 君限定で暗いのかな、なんて、冷静に聞いたら死ぬほど落ち込みそうなことを言われた。負けるもんか。
「うんと、じゃあ、えっと。一緒にいたいわけじゃん」
「はあ、はい」
「どんなふうに一緒にいたい?」
「ど、どんな……?」
「俺は仕事仲間と……他の皆と変わんねーの?」
 あ、俺また「意地悪」言ってるな。もう嫌だな、こんな会話の仕方は。俺の顔が曇ってきたのを察してか、そーちゃんが考えをまとめ切れないまま、頑張って口を開こうとする。
「ぼ、僕は」
「うん」
「自分が、こう見えて節操のない人間であることを自覚しているので……」
「別に特別驚かねーよ」
 完璧主義で極端なそーちゃんのことだ。そーちゃんには俺のことを知りたいと思ってほしいけれど、いざ一つ知りたいと思わせたら、百しゃぶりつくされるだろうって覚悟で近づいてる、これでも。
「それでいーよ。怖くない。そーちゃんは怖い? 俺に全部見せんの」
 ああ、答えを言っちゃった。そーちゃんは数秒迷った後、ためらいがちにうなずいた。俺に見せたくないそーちゃんがそーちゃんの中にあるならなおさら見てみたい、なんて言ったら、それこそ嫌がられるだろうな。でも、見せなくていいよ、なんて優しい台詞は俺には言えない。
「もっと優しい奴がよかった?」
「……そんなことない。君こそ、僕なんかでよかった?」
 ケンカの延長で真面目な話を始めてしまったから、二人とも部屋の真ん中に立ちんぼのまんま。互いを慰めるみたいに抱き合う仕草も、今はまだぎこちない。